世間一般で、いまや常識的に語られているのが、「現在は低金利だが、今後金利上昇が予想されるため、長期固定のローンを組みましょう」とか、「生涯トータルの金利を節約するため、できるときにはドンドン、繰上返済をしましょう」という類の、アドバイスです。
金融機関をみても、最初のおトク感を打ち出すため、当初の数年間は固定金利が適用される住宅ローン商品を力を入れて販売する傾向も、いまだに健在のようです。
しかし、ここは見落としがちなことではありますが、私たちにとって住宅ローンが人生最大の負債になる可能性は、確かにあるものの、「私たちにとっての、収入や資産、そして負債の増加や減少は、なにも住宅ローンだけで発生するものではない」という当たり前の事実を、もう一度よく心に刻んでおきたいものです。
金利上昇時、住宅ローン金利だけが上がるわけではない
たとえば、預貯金の低金利も続いていることから、いまや投資信託などの金融商品で資金運用をされている方も、多いことでしょう。
かりにこの先、金利が上がったとした場合、住宅ローンの金利支払額も確かに増えるかもしれませんが、その一方で、これらの金融商品からの運用益もまた、増加するはずです。
こうなると(税金などの問題を除いて話を単純化すれば)、もし金利上昇により生じた「保有投資信託の運用益の増加」が、「住宅ローン金利の支払額の増加」を上回る場合は、この投資信託商品を解約して住宅ローンの繰上返済にまわす方が、「絶対に得である」とは、誰も言い切ることができないはずです。
それはそのケース、その実行時期において、計算し両者を比較してみて、はじめてわかる話だからです。
セールス側の「金利動向」のあやふや加減
たいていの場合、住宅ローンを販売する金融機関の側は、あくまで「現時点における」金利動向などから、その住宅ローンだけに絞って、固定金利や繰上返済による節約額の試算をしているケースが多いはずです。
それ以外の変動要因、すなわちあなたの他の保有資産や負債、収入の増減などについては、住宅ローン返済期間となる数十年の間においてそれらがどう変わり、住宅ローン金利の影響と足し合わせた場合のトータル損益予測がどう変わっていくかなど一切お構いなしに、ただ自分がセールスしたい商品だけにフォーカスして「これだけお得ですよ」と売り込んできていることに、注意するべきです。
住宅ローン支払額試算は、仮定・条件の上にのみ成り立つ<
本当のところ、今後数十年の社会予測が、しょせんは当たり外れの世界であることと同様に、長期固定金利による借り入れや繰上返済が絶対に得なのかどうかは、節約額をシミュレーションして提示している金融機関の側だって、しょせんわかるはずもない、仮定や条件を数多く設定して逃げ道をたくさん確保した上での「予想」をするので、精一杯なのです。
(そういえば、金融機関が提示する節約シミュレーション表にはいつも、「あくまでも現段階における条件から試算した仮定であり、節約できる金額を保証したものではありません」とかなんとか、但し書きが小さく下のほうに、書いてあったりしますよね...)
このようなシミュレーション表を持参した営業マンには、「いったいどういう仮定・条件を置いてこんな数字を持ってきたのですか?」と議論に巻き込んでみるのも、あるいは一興かもしれません。
会社のパソコンでササッと適当な数字を入力しただけの営業マンも、あるいは多いかもしれませんから(笑)。
住宅ローン金利、固定金利や繰上返済は本当におトク?(2) に続きます。