住宅ローン金利、固定金利や繰上返済は本当におトク?(1) からの続きです。
住宅ローンに関する書籍や記事は世間にあふれていますが、そのほとんどが、やれ変動金利だ固定金利だ、やれ月々の返済額がいつからいくらくらい跳ね上がりそうだ...、といった内容になっています。
そして、もっぱら「住宅ローン」と「金利の種類と利率」、そして「返済期間」に絞ったシミュレーションを提示して、話を展開しているようです。
しかし実際問題、その住宅ローンを検討するあなたの側としては、「家計」という名のたったひとつの財布に出入りするお金を考えてみると、考慮すべき要素はなにも、住宅ローンだけではないはずですよね。
ここに、「住宅ローンにおける損得」を語るうえでの、落とし穴があるのです。
長期固定金利や繰上返済が、誰にとっても得なはずがない
しみじみ考えてみると、不思議なことではあります。
その住宅ローンを固定金利で運用したり、あるいは繰上返済をしたりしたら「数十年後にいくら得をする」などと、自信満々に千円単位で数字を出しておきながら、それでは数十年後の人生において、「その住宅ローンの損得を含めてプラスマイナスし、トータルでいくらの損得となるか」については、彼らはまったく算出することができないのですから。
そんなことは当たり前だろうと、思われますか。
しかしそんなことを言ったら、数十年後の金利動向まで予想して、長期固定の住宅ローン利用でいくら得をするとか、繰上返済でこれだけ得をするとか、自信満々に節約額をはじきだして紙に書いてあなたのところに持参してくる行為それ自体が、大変に不思議な話だと思われませんか。
それに、「あなたの固有の生活」という面から見ても、手元のキャッシュを乏しくしてまで繰上返済をすることが果たして賢明なことなのかどうか、すくなくともあなた自身、よく考えてみる必要がありそうです。
たとえば、手元にあった現金百万円を、住宅ローンの繰上返済に回してしまった後に思わぬケガをして、治療費や職場復帰まで時間がかかったために生活費の出費が増え、やむなく、新たに金利十数%の消費者ローンを借り入れた。
こういった場合、最終的に支払った金利と節約した金利をプラスマイナスした時の損得という意味では、住宅ローンの繰上返済を行わずに、手元にあった100万円のキャッシュを活用していたほうが、トータルでみた場合はよかった、ともいえるのではないでしょうか?
つまり、「ローンを抱えているが、一方で手元に資金がある」ということは、「ローンは無いが、手元に資金もない」ということよりもつねに良いのだとは決していえない、ケースバイケースだということです。
借入イコール悪、早期返済イコール善、的な発想に、ひょっとして凝り固まっていませんか?
「住宅ローンは長期固定金利や繰上返済が、変動金利や繰上返済ナシの場合に比べて絶対にお得である」、などという話はしょせん「一定の仮定の下で」という話であり、返済後に勘定を締めてみてはじめて、トータルでみた勘定の損得がはっきりする話なのです。
住宅ローンと保険、セールスの類似点
その意味では、保険のセールスと似たところがあります。
保険をセールスする側は、いざというときに高額の治療費がかかるので補償範囲の広い保険に入っていた方が安心だといって、高額の保険商品を勧めてきます。
しかし、保険加入などせずにそのお金を金融商品などで運用し、いざというときの治療費はそのお金を取り崩して支払う。
このほうが、起こるか起こらないかわからない高額治療のために保険会社に生涯にわたって支払う保険料の総額と比べて、ずっと負担も軽く、いざという時の対応だって保険請求に比べて全然早かったというケースだって、現実には多いのです。
まして、保険会社の場合、最近は悪評高い「不払いリスク」だってありますからね。
自分のお金なら、その心配もナシです。
「そもそも健康保険で7割くらいカバーされているから、それ以上は自己資金でやる、それ以外の保険は不要」という考え方が、本当に「人生で損となる考え方」と言い切れるものでしょうか?
数十年間大きなケガも病気もしなかった場合(現実にはこちらが多数派です)は、保険料に消えていたはずのお金が手元に多く現金として残っているわけですから、このほうが「結果的には、ずっとお得だった」ことになりませんか?
得か損かは、その人の置かれた状況次第、いつどの時点で見るかによって、しょせんはまるっきり変わってくる話だ、とも言えませんでしょうか。
断定的な住宅ローン情報は、自分のケースに照らして冷静な判断を
少しばかり、話がそれましたね。
先のことはわからないから何も準備しなくてよい、どちらでもよい、と言いたいわけではありませんので、誤解なきよう。
巷にあふれる「住宅ローン金利をめぐる損得にかかわる情報」は、しょせんはあやふやな先々の仮定にもとづいた、しかも住宅ローンそのものの動きしかみていないものが大部分であることを冷静に認識した上で、「こと、我が家の経済状況においてはどうなるのか」をきちんとみつめ、まどわされず判断していくことが大切だ、と言いたいのです。
いずれにせよ、あなたの家計の事情など何も知らない第三者が、長期固定金利や繰上返済が「絶対にお得である」などと言い切って、自信満々にその手の住宅ローン商品を推してくる場合には、多少は眉にツバをつけて聞いておいた方がよいでしょう。